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岡山地方裁判所 昭和59年(わ)950号 判決

本店所在地

岡山市錦町一番二七号

海成株式会社

(右代表者代表取締役 千原巧嗣)

本籍

岡山市駅前町一丁目四四番地

住居

同市原尾島一丁目八番一号

会社役員

千原巧嗣

大正一〇年一〇月六日生

右海成株式会社に対する法人税法違反、千原巧嗣に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官鈴鹿寛及び弁護人岡崎耕三各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人海成株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人千原巧嗣を懲役二年及び罰金三〇〇〇万円に、それぞれ処する。

被告人千原巧嗣において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人千原巧嗣に対し、この裁判の確定した日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人海成株式会社は、岡山市錦町一番二七号に本店を置き、パチンコ店を営むもの、被告人千原巧嗣は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括するとともに、岡山市清水二反田三七一の一他七か所において、パチンコ店、ゲームセンター等一六店舗の営業を営んでいたものであるが、

第一  被告人千原は、被告人海成株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

一  昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が一億八五二三万九二二一円(別紙(一)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額は七五八〇万九七〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)であったにもかかわわず、仕入れの水増計上等の方法により所得を秘匿したうえ、同五六年七月二九日、岡山市天神町三番二三号岡山東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七三一三万一四五一円でこれに対する法人税額が二八五九万一八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第二八号の一)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四七二一万七九〇〇円を免れ、

二  同五六年六月一日から同五七年五月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が二億〇一五八万一一〇一円(別紙(二)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額は八一二〇万一五〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)であったにもかかわわず、仕入れの水増計上、売上除外等の万法により所得を秘匿したうえ、同五七年七月三一日、右岡山東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八三六七万九八八二円で、これに対する法人税額が三一六九万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告(前同号の一)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四九五〇万五四〇〇円を免れ、

三  同五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が二億三三六八万二〇七八円(別紙(三)修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額は九六一六万八五〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、売上除外等の方法により所得を秘匿したうえ、同五八年八月一日、右岡山東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五三七一万一七一一円でこれに対する法人税額が二〇六〇万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の一)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額七五五六万〇三〇〇円を免れ、

第二  被告人千原は、自己の所得税を免れようと企て、

一  同五六年一月一日から同年一二月三一日までの実際総所得金額が一億六〇五三万五〇二七円(別紙(五)修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額は一億〇一〇六万七六〇〇円(別紙(七)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、売上の除外、仕入れの水増し、家族名義で分散して所得税確定申告書を提出する等の方法により所得を秘匿したうえ、同五七年三月一五日、前記岡山東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二二九万四五三五円でこれに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると三三三万七六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の二)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額九七七三万円を免れ、

二  同五七年一月一日から同年一二月三一日までの実際総所得金額は二億六一八八万〇五六三円(別紙(六)修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額は一億七五九九万二二〇〇円(別紙(七)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の方法により所得を秘匿したうえ、同五八年三月一五日右岡山東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二八六八万一五五六円でこれに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると五三三万三八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の三)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額一億七〇六五万八四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人千原巧嗣の当公判廷における供述

一  被告人千原巧嗣の検察官に対する昭和五九年一一月一六日付及び同月二一日付供述調書

判示冒頭の事実につき

一  被告人千原巧嗣の検察官に対する昭和五九年一一月一五日付供述調書

判示第一及び第二の事実につき

一  収税官吏作成の調査書三二通

一  高生基一(三通)、加藤千恵子(二通)、下山敏明、北村義正、田辺勝彦、千原崇敬、千原浩義、山口泰一、林健治、家石南海男、石田光雄こと金洸猷、新井健三、榎本吉男、高橋義嗣、貞平稔及び浅井旬夫の検察官に対する各供述調書

(法令の適用)

被告人千原の判示第一の一ないし三の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に、同第二の一及び二の所為は、いずれも所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を、同第二の各罪につきいずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科することとし、かつ、判示第二の各罪につきいずれも情状により所得税法三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人千原を懲役二年及び罰金三〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から、被告人千原に対し三年間その懲役刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人千原の判示第一の各所為は、破告人海成株式会社の業務に関してなされたものであるから、同被告人については、判示第一の各罪につき、法人税法一六四条一項により、同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、判示第一の各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告人海成株式会社を罰金四〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、判示のとおり、パチンコ店などを経営していた被告人千原が、会社の法人税につき昭和五六年五月期から昭和五八年五月期までの三事業年度について合計四億〇九九七万円余の所得を秘匿し、合計一億七二二八万円余の法人税を免れるとともに、自己の所得税につ、昭和五六年及び同五七年分の二年分について合計三億七一四三万円余の所得を秘匿し、合計二億六八三八万円余の所得税を免れたという事案である。法人税につき、その所得秘匿率は六六%、税ほ脱率は六八%、所得税につき、その所得秘匿率は八七%、税ほ脱率は九六%に及んでいる。

しかし、所得税についてみると、被告人は自己の所得を全く秘匿していたわけではなく、家族名義ではあるが申告しており、今回家族名義で申告した分につき所得税が還付されているが、その合計額は一億三七九六万円余であって、いわば被告人は、本来納付すべき前示二年分の所得税合計二億六八三八万円のうち右一億三七九六万円余は納税していたともいえるのであって、実質的なほ脱税額は、その差額一億三〇四二万円余ともいえるのである。

現在、被告人も自己の行為を反省しており、既に修正申告を行って重加算税、延滞税等の諸税も完納している。その他被告人の年齢、経歴等の諸事情を考慮し、被告人らに対しては主文掲記の刑を量定したうえ、被告人千原に対してはその懲役刑の執行を猶予することとした(求刑 海成株式会社罰金五〇〇〇万円、被告人千原懲役二年及び罰金八〇〇〇万円)。

よって、主文のとおり、判決する。

昭和六一年五月七日

(裁判官 原田敏章)

〈省略〉

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

〈省略〉

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和56年6月1日

至 昭和57年5月31日

〈省略〉

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和57年6月1日

至 昭和58年5月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

修正損益計算書

(合計)

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

修正損益計算書

(合計)

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

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